2012年3月28日水曜日

普天間基地問題を袋小路に追いやっているのは報道だ

(2月下旬に書きかけの文書を1カ月遅れでUP)

もう5年程前になるが、夏休みに子どもをつれて沖縄のリゾート地に遊びに行った際、時間をとって嘉手納基地の見える、いわゆる「安保の丘」(今は記念館のような建物の屋上から眺める)と、普天間基地を見渡せる公園に寄って、小学4年生の息子に、沖縄の現実を説明した。美しい海岸で遊べるのも沖縄。一方で基地と向き合って生活する姿も沖縄であると。

沖縄の在日米軍・普天間基地の移転問題は、袋小路に入っている。難しい問題だ。しかしそうさせた一因の大きな一つは新聞やテレビのマスメディアだ。
野田首相が総理として初めて沖縄訪問をした翌日の新聞各社の社説の主張は真っ二つに割れた。
各紙の社説の見出しはこうだ。
○朝日:負担軽減を早く確実に
→辺野古断念を主張し、米軍再編の見直し策を練ろと主張。しかし“どこに”とは巧妙に言及を避け、負担軽減を早くと主張する。
○毎日:「辺野古が唯一」は無策
→辺野古断念を主張しするが、「移転先がどこになるにせよ」という言い回しで、その先のことは知らぬふり。
○東京:謝罪では普天間返らぬ
→辺野古断念と、海兵隊の沖縄駐留が「抑止力にならない」と主張。(ということは、海兵隊の抑止力そのものは認めているということか)。移転先は「国外・県外移設の提起を決断すべき」と主張。

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○読売:関係改善テコに普天間進展を
→これまでの政府の対応を批判しつつ、民主党沖縄県連と政府・民主党の考え方のズレを指摘。その是正をして普天間の危険回避のため、辺野古移転を支持。
○日経:「普天間」でもっと手を尽くせ
→読売とほぼ同様の主張。党内意見をまとめる努力、辺野古が「最善」との説明にもっと努力せよと主張。
○サンケイ:普天間移設さらに努力を
→鳩山、菅のおバカ政権に比して野田首相は努力している点を評価。その上で、辺野古案を進めるよる主張。

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A・M・T 各紙は、辺野古は実現不可能、「県外に探せ」という。しかし沖縄県外とはどういうことか、小学生でもわかる、それ以外の県に「迷惑施設」が来るということに他ならない。この新聞たちは、おそらくどこが候補に挙がっても、その地域が「迷惑している」ことを記事にするだろう。それ自体は部分的に正しいとしても、そうした「主張」によって“世論”が形成され、結局、政府が何も事態を動かすことができずに、更に袋小路に入っていく。

普天間の危険性や沖縄米軍基地の負担軽減は、いわば当然のことで、この日の社説でいまさらそれを主軸に論を展開するのは、実は何も言っていないに等しい。沖縄に寄り添った主張のポーズを示しているだけだ。

「米軍基地は必要ないから廃止し、普天間を返せ」という主張なら、(それが正しい認識かどうかは別にして)論理は一貫していて、筋は通っている。しかし移転先に言及しない、「どこになるにしろ」とか「県外へ」という主張は、欺瞞に満ちている。
この3紙は、米軍基地が、どこにどの程度必要であり、どうするのがいいのか、「わが社」としての主張は曖昧にしながら、ただ、中央政府の動きだけを批判する。あまりにもご都合主義の主張だ。これぞメディア版ポピュリズムだと思ってしまう。

沖縄の地元の方々や地場のメディアが、「基地は県外に」と主張するのは理解できよう。どこでも地域の論理はあるし、それ自体否定するものではない。しかし少なくとも全国紙としては、地元の意を斟酌しつつも、大局的な主張がなされてもいいのではないか。そうでなくては「全国紙」の存在価値はないし、読者として講読する意味がない。

在日米軍の規模が適正なのかどうかを、きちっと論じているのは、琉球大学の我部政明教授くらいしか知らない。(「世界」2012年4月号『限りなく実効性の低い米軍再編見直し合意』 )
我部氏の緻密な分析は、(素人には理解がちょっと難しい面もあるが)説得力は感じる。その我部氏さえも、「米軍は必要ない」とは言っていない。

沖縄に「米軍基地は全くいらない」という主張をする人は、きょう日ごく少数派だろう。軍隊が嫌いな人でも、中国の太平洋での動きや北朝鮮問題を考えると、程度の差はあれ、「やはり最低限は必要」という思いを抱いている人がほとんどではないのか。

新聞各紙の主張も、こうした「やはり米軍は必要」という空気(この言葉は嫌いだが他に適切な表現が思いつかない。)を読んだ背景がある。そこが朝日、毎日、東京各紙のズルいところだ。
どういうご主張をしようと、それはご自由だが、そうした態度こそが読者を失っていく契機になっていることを忘れない方がいいだろう。

翻って、Y・N・Sの各紙の主張する「辺野古」が「最善」という主張にも、ナチュラリストとしてはちょっと違和感も感じる。はたして「最善」なのかどうかは分からない。しかしこの3紙は、これまでの政府と米軍の交渉の経緯を踏まえた上で、論理の一貫した主張を行っている。その意味では、「「信頼に足る」主張だと言える。



朝日

毎日

東京

読売

日経

サンケイ




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