2012年1月14日土曜日

新機軸を打ち出すのは、なかなか難しい。新聞各紙 新年企画 読み比べ

社説と並んで、新聞各紙が力を入れるのが、新年企画記事だろう。
それこそプロジェクトチームを組んで、構想を練り、テーマを絞り込み、そして“そのテーマに合う”素材を探して取材をする。全体を見渡す統括(論説委員クラスだろうか)がいて、おそらく彼が巻頭言を書き、兵隊(取材記者たち)が素材を見つけてきては「読み物」に仕立てる。こんな方法はあまり次代が移っても、また新聞社が違ってもあまり変わらないのではないだろうか。



○日経「C世代 駈ける」

20代の若者を「C」をコンピュータ(Computer)を傍らで育ち、ネットで知人とつながり(Connected)、コミュニティー(Community)を重視する。変化(Change)をいとわず、自分流を編み出す(Create)、「ジェネレーションC」と定義づけて、この世代への期待を込めて30代、40代も含めた「活躍しているヒト」を取り上げた企画。「20年後、20代の若者は社会のけん引役になっている。次の世代が描く未来図はどんな形だろう」と問いかける。しかし内容にあまり新味も面白さも感じられなかった。日経は「C」のように何かでくくった「こじつけ」げ結構好きなようだ。「大人」から「20代への期待」は、一見寛容な大人の態度で若者に理解を示しているポーズに見える。しかし、ちょっとうがった見方をすると、日経の読者が減っていく中で若者をもっと取り込もうというねらいが透けて見える。
日経の主な読者は中堅のビジネスマンだろう。少子化と就業の変化の中で、次世代の日経読者をどう獲得するかは、結構大きな課題なのだろう。日経を読むことが「ステータス」だと若者にもっと刷り込む必要がある。その結果生まれた「ジェネレーションC」だったのかもしれない。
内容にいちいちケチをつける程のものもなかった。


他社の企画も同様の傾向があるが、「活躍するヒト」「珍しい活動をしているヒト」「ほか様々珍しいヒト」を取り上げて物語として仕立てあげるのが定番だ。読者をひきつける記事に、他にいい方法がないのも確かだが、この手法自体、だいぶ手垢が付いている気がする。だから(後述する朝日もその典型だが)、取り上げるヒトがどんどんエスカレートしてくる。
ふつうの人には誰も振り向かないから。それはまるで民放テレビ番組のバラエティーと言われるジャンルが、同じような企画しか打ち出せない中で、より過激な表現・手法になっていくのに似ている。



○毎日「リアル30's」

毎日が争点を当てたのが30代。
「『失われた20年』に思春期を過ごした世代が今、30代を迎えている。仕事、結婚と岐路に立たされる年齢」と規定し、「社会は閉塞感に覆われ、どんどん生きづらくなっている。」「件名に考え、悩み、迷う30'Sを追う」のだと。
その背景に、彼らの世代が、就職氷河期とされる1993年~2005年に就職期を迎え、多くが正規雇用に就けず、低賃金で不安定であることだという。

日経の「20代」同様、この世代も、いわば将来の担い手。彼らの身の処し方、活躍次第で、社会が変革するかどうかにかかわっているというのは、その通りだろう。ねらいは悪くない。
しかし内容は、企画倒れになってしまっている。2回目以降を読む気にはなれなかった。。
なぜか。それは別項で。


○朝日「カオスの深淵」

「民主主義」に正面から取り組んだ、つもりらしい。かつて朝日も民主的でないと批判した(と自ら書いている)無投票で多選の首長が決まっていた大分県姫島村の話と、総選挙(ファン投票)で第一に選ばれた「AKB48」の前田敦子を並行して第一回で取り上げている。これで読者を「おや?」と思わせて引き付けようとしているのだろうが、どう読んでも、奇をてらったとしか思えなかった。論考は別項で述べる。


○ サンケイ 「The リーダー」。

「リーダー論」はこのところ様々なメディアで盛んな印象がある。これだけ政治が混迷すると、どの言論機関も「リーダー」を求めるのは、もっともな話だ。しかし、リーダー論の限界も同時に感じる。サンケイの企画は「平成の龍馬はどこに」と銘打ち、自社で行ったネット調査の結果を一面で載せている。
結果、現役政治家で1位になったのは、あの橋下だった。おそらくサンケイもこの結果を知った時点で、企画の「失敗」を悟っただろう。
なにしろ①坂本龍馬、②織田信長、③徳川家康、④小泉純一郎、⑤橋下徹、⑥松下幸之助なのだから。いくらサンケイさんでも、橋下を現代のリーダーと持ち上げる訳にはいかないだろう。どう企画記事の筆を進めるか迷ったにちがいない。5面で「東京編集局長」氏が、一昨年橋下と石原慎太郎の対談をセットしてそれに立ち会った時のことを書いている。「閉塞感を打ち破りたいと考える2人」そして「リーダーはどうあるべきか・・・真のリーダー像を見つけたい」と意気込む。

「リーダー論」は「プレジデント」や歴史雑誌の十八番企画だが、今年のサンケイ企画もこの路線の紋切型の「リーダー論」を抜け出せない印象は否めない。

○東京(中日)
「雨ニモマケズ 3・11から-連載企画10の数字」というのが、どうやら新年企画らしい。
切り口は「2012年問題が飛び交う今年、…日本を象徴する十の数字に着目」したという。そして「十の数字の背景にあるものを取り上げ、どう乗り越えていくのか考えていく」という。
その十とは
①OECD調査で「家族以外と交流のない人の割合、15%
②OECDの学習到達度調査で日本の数学的応用力が日本は2000年の1位から9位に転落
③国内の再生エネルギー割合3%
④去年4月から年末までに脱原発を訴えるデモが300件
→「政治家に頼らず直接世の中を変える新しい民主主義の動きと注目する見方もある。」と。
⑤1次産業に従事する人口4.8%.
⑥新卒で入った会社にとどまっている若年層の割合44%.
⑦科学技術費は民間企業の投資も含めて17兆円。
⑧カロリーベースの食糧自給率39%。
⑨社会保障費の伸び毎年1兆円。
⑩生活保護受給者206万人。
ん~~。それぞれに重要な課題であることは分かるが、改めて数字を見せられて「問題の所在を思い出す」以外、どれも重いテーマすぎて考えが深まらなかった。
ちょっと大上段に構えすぎではないだろうか。だいいちなぜこの10項目なのか、それが分からなかった。


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