2012年5月23日水曜日

世田谷プールの「構造問題」 東京プール難民、番外編

世田谷総合運動場 温水プール 外観


 東京体育館の50mプールが休止になって、首都圏近郊の50mプールを探訪するシリーズ。
辰巳の国際水泳場、横浜国際プールと見てきたが、最後は世田谷温水プール。
ここにはかつて、小学生の子どもを連れてよく通った。何しろ元旦から開いている(年末は休止)ので、3年続けて1月1日に一家3人で泳ぎに行ったものだ。今回訪れたのは5年ぶりくらいか。5月19日(土)の午前中、そんなに混雑はしてはいなかった。

東京の区の設置で50mプールを持っているところを他に知らない。おそらくないだろう。

世田谷区の人口837,185人(市町村便覧 平成24年度版)。千葉市・936,809人(同)よりも少ないが、堺市・837,977人とほぼ同等、新潟市・803,072人より多い。
県でも、山梨県 857,690人(41位)、佐賀県 846,922人(42位)、福井県 803,216人(43位)〔いずれも2012年〕に匹敵する、世田谷区は、大規模自治体だ。もちろん東京の区で一番人口が多い。

(この機会に予算規模も調べてみたが、世田谷は2,800億円余りに対して、今年度、山梨県は約4,600億円、新潟市は3,573億円と、いずれもはるかに大きい。教職員や警察は都道府県職員だし、地理的なさまざまな条件などもあるだろうから単純には比較できないが、地方に手厚い予算が透けて見える。)

さて、まずプールの一般的な状況を報告。(後段で、この施設の構造問題を論ずる)
「世田谷総合運動場温水プール」は、運営母体が“指定管理者”の「世田谷区スポーツ振興財団(公益団体法人)」だ。財団としてのHPもちゃんと持っていて
http://www.se-sports.or.jp/index.php
区の外郭団体としてはなかなかのものだ。
役員・評議員名簿(http://www.se-sports.or.jp/pdf/about/index_meibo.pdf)や
職員、理事長の給与まで載っている。

「世田谷区スポーツ振興財団」では、運動場とプール6か所、体育館3か所、トレーニングルーム1か所の運営を行っている。(HPより)。

●コース設定
プールは50mと25mの2種類。
25mは水深が90㌢程で主に子ども用だ。自由遊泳が4、往復コース1、ウォーキング1。
50mプールは片道コースが2、往復コースも2、ウォーキング1、自由遊泳3の構成だ。(土日の場合)。平日は貸し切りが入り設定が異なるようだ。
驚いたことに(忘れていたのだろう)、ここも横浜国際プールと同様、「追い越し可」なのだ。スピードによるコース分けをしていないので、往復コースでも、真ん中をどんどん追い越していく。これはこれで、結構合理的なのかもしれない。「追い越し可」については、あとで考察する。

●休憩時間
休憩時間は2時間ごとに設けられている。
最初は9時50分から10時。オープンが9時なので、オープンと同時に入って着替えてなんやかなと
やって泳ぎだすのが10分すぎだど、わずか40分で1回目の休憩時間がきて、中断させられる。

プール入口は階段を下りた地下1階
●シャワー室
公立のプールはたいていそうだが、ここもシャワー室でのシャンプー、石鹸の使用禁止だ。「サラリーマンが勤務前にひと泳ぎ」なんていうのは想定していないのだろう。

●ロッカー
比較的大きめのボックスも相当数あるが、更衣室は狭い。シャワーはブースが4つあるだけ。ドライヤーも固定式の簡易なものが4,5台あるだけだ。洗面台にコンセントはあるので、髪を整えたい人はドライアー持参であyるしかない。

●客層、運営状況
HPによると結構厳格に「集団指導」を規制しているので、いわゆるもぐりの水泳スクールはないようだ。(東京体育館はひどかったヨ) 場所柄子どもの数は多いがほとんどは25mプールか50mでも自由遊泳エリアにいるので、あまに気にならない。

●コース設定について
片道コースは、2人が並んで泳げるが、どちらが“追い越し車線”なのか指定はないので、ゆっくり派はどちらを泳いでよいのか分からない。で、往復エリアで泳ぐことに。一番端のコースを泳ぐ。
追い越されててもいいように、なるべくコースロープ、又はプール側壁ギリギリで泳ぐ。
速い泳ぎ手が時々左側を抜いていく。追い越し組みはほぼクロールなので、狭くても手足がぶつかるような心配はない。スムーズな流れだ。「追い越し可」も、この意味では合理的設定だろう。
問題はこちらが追い越したい時だ。私が追い越すのは、あまりにスローなご老人やビート版を使ってバタ足でコースを泳ぐ子だ。コース半分(往路)の幅いっぱいを使って、時には蛇行しながら泳いでいるので、追い越すのも、ちょっと怖いくらい。こういう人に気を遣えと言っても無駄なので閉口する。監視員の「指導」が入ることはない。少なくともそうした状況には遭遇しなかった。

どこまで細かく規則を作るか、は実は悩ましい問題だ。あまりに規定しすぎては運営する方がタイヘンだし、泳ぎ手にも多少の自由度はほしい。しかし「常識はずれ」の輩が無神経にコースを独占していると、何とかしてほしいと思うことも多い。

●アクセスは悪セスだ。
世田谷温水プールの最大の難点は、交通の便が悪いこと。公共交通機関はバスで行くしかない。利用したことないので詳細は知らないが、成城学園(小田急線)や二子玉川(東急線)がバスの最寄駅だろう。しかしいずれも時間がかかる。
また自家用車で行くにしても、駐車場が施設全体の規模に比して狭く、すぐ満車になる。また何か大会があると貸し切りになり、一般車は駐車できなくなる。これでは近隣の住人以外来るなと言っているようだ。以前行った時は駐車場に何十分も並んだ覚えがある。

●総括 「撮影禁止」から考える、規制とサービス向上
プールの建屋の構造は洒落ている。1階の入り口から吹き抜けになっている地階に下りたことろが入口。1階からも、また入口近くからもプールがよく見える明るいガラス張りになっている。
当然のことながら、「撮影禁止」。ヘンな輩が多いので、禁止にするのは、変質者への対応の未然防止然という観点からはやむを得ない措置なのかもしれない。しかし子どもと行った時に感じたのは、親心としてはわが子の泳ぎがうまくなる姿を撮影したいと思うし、記録に残したい。そうした機会をすべて奪ってしまうのは寂しい。なんとか、折り合いの付く方法はないものか、他の公的な施設でも感じたことだ。

一般に管理者は事故や特異な目的の撮影者などの行為を防ぎたい。当然だ。だから、運営者の責任に帰するおそれのある事については、規制は厳しくするしそれを厳格に守ることが使命になる。しかし利用者は、納税している区民(が主)なのだから要望にも耳を傾ける必要があろう。しかしたいていの場合そうはならない。公的機関の管理者には「サービス」という感覚が皆無だからだ。利用者の思いなど二の次だ。とにかく事故・不祥事なく平穏に運営されて責任が来ないようにするだけだ。

サービス感覚がないのは、なにも「撮影禁止」だけではない。使い勝手の悪い更衣室や休憩時間の設定など、このプールだけでも様々な改善点はある。しかし、少なくともこの7、8年だけでもそれは変わっていない。

休憩時間についても最初9時50分にあることは、なんとも理解し難い。HPには「お客様の健康管理と安全管理のため」と記してある。最初は50分弱しか泳げないのにそのあとは2時間間隔。合理的理由があるとは思えない。単に規則をそう決めて、なんの思慮もなく、それを守っているだけだろう。そもそも「健康管理のため」という休憩時間が必要なのか。休憩時間を設けていたらそれが守られて、設けていないと健康が損なわれる事態になるのか、根拠は何もないと思う。

それなりに利用者がいるから、駐車場の整備や快適な更衣室を整備などという発想は出てこない。公営施設の弊害が随所に出ている。

お客様の「苦情・要望」への回答書 ファイルにもなっている。
入口近くには、ご意見箱が置かれて、「利用者様のさまざまなご意見・ご要望にお答えします」という姿勢を見せている。これがまたクセものだ。公的団体として、行政サービスの一貫だからこうした目安箱を設置しているのだろう。しかし用紙には、ご丁寧に「名前やメールアドレスは書かないでください」となっている。匿名が条件だ。この姿勢は、施設側の逃げでしかないだろう。匿名性を強要しておいて、公表する回答方式にしている。あくまでも個人(のクレーマーと言いたいのだろう)には個別にお答えしませんという、装置と化している。中身をいくつか読むと、ハンで押したような紋切形の回答ばかりだ。
要するに、「お客様のご要望はよく分かりました。」とまずクレームに理解を示しておいて、「しかしながら、○○××の理由により、現状のようになっているのでございます」と言った具合だ。さすがお役人主体の組織だ。あっぱれ。最初から、クガス抜き装置になっているだけだ。



そしてここからが、本項の本題。サービス精神がないのは、運営主体の構造問題だからだ。

◇◆◇プール運営の構造問題◆◇◆
「世田谷スポーツ振興財団」のHPを見ると、いろいろ興味深いことが分かる。
「沿革」を見ると平成11年に財団設立、平成23年4月から「公益団体法人」に以降している。そして
平成24年4月、「総合運動場で3度目の指定管理者開始」としれっと書いてある。
つまりこの財団が言いたいのは、公平な競争によって「指定管理者に選ばれました」ということだ。
この2階に「財団」の事務所が入る

公正な競争原理が働いたかどうかを検証するのは非常に難しい。発注する側が様々な条件をつけて、事実上「参入障壁」を作るのはたやすいからだ。これからもこの財団が世田谷区の「指定管理者」であり続けるだろう。なにしろ理事長は元世田谷区の教育委員長。会計監事には現役の世田谷市役所職員がなっているのだから。ちなみに教育委員長は通常、教育行政側のトップのポストだ。ということで、ほとんど事実上、独占請け負いの事業だ。競争原理が働かない分、サービス向上など考えるインセンティブは働かない。


※東京体育館はセントラルフィットネスが指定管理者になって、更衣室やふろ場の改装など(どちらが先かは知らないが)が行われ、確かに“民営”のメリットが実感できている。

そしてもうひとつ、財団のHPにか記されていない事実をつかんだ。プールで実際に運営にあたっている人たちは「トーリツ」という会社の人々だ。おそらく財団の正職員はプールサイドにはひとりもいない。
トーリツとはどういう会社か。HPがちゃんとある。http://www.toriz.co.jp/
元々、ビル清掃の個人事業を大きくしてきた会社だ。清掃から始まって、ビルの空調管理や運営管理に手を広げ、いまでは公共施設の管理運営を手広く行っている。HPで、最近横浜国際プールの「指定管理者」(のひとつ)になったことを宣伝している。しかし「主な取引先」に他の区は載っているが世田谷区の名はない。これは財団から業務を請け負っているからなのだろうが、意識的にそれを隠していると受けとれる。だって、普通、企業にとって公官庁との取り引きは信用の指標になるし積極的に公表したいことだ。実際、他の区の名前は列挙されている。

この会社の概要を見ていて驚いた。常勤職員は、事務職5、技術職8、一般職(営業・業務)40、非常勤(パート・アルバイト他)が682人となっている。トーリツには支店・営業所が9か所ある。ということは、現場で運営している人間のほとんどは、パートやアルバイトということだろう。

世田谷温水プールで監視業務にあたっている者のシロウトっぽさが気になって「あなたはは世田谷スポーツ振興財団の職員ですか」と聞いたら、「運営会社のトーリツの者です。」という答えが返ってきて、カラクリがわかったのだった。

財団は、プール(だけじゃなくて、おそらく施設管理全般を)の管理をほとんどトーリツに業務委託という形で丸投げしている。そのトーリツも実際に働いているのは、非常勤。これでは、関越道で事故を起こした、どこかの旅行会社とバス会社と同じではないか。だから彼らには顧客へのサービス
向上という考えは発生しない。

断っておくが、私は「下請けがいけない。パートやアルバイトは能力が低い」と言っているのではない。非常勤でも優秀な人はたくさんいる。区の職員ならばよいということでは決してない。言いたいのは、サービス向上へのインセンティブが働かないことが、構造化されていることだ。
おそらく財団の人間はこう言うだろう。「これまで運営してきて、だいたい利用者に満足頂いている。特に運営に問題になっている所はない」と。民間のように、よりサービス向上を目指そうという気は、発想からして存在しないのだ。競争原理が働かない限り。

明らかになったこのプールの下請け構造で一番悪質なのは、こうした請け負い構造事態を財団が隠していることだ。財団のHPにはトーリツのことはいっさい書かれていない。

世田谷区長さん。脱原発、脱東電に熱心ですが、もう少し足元の構造と、その状況に目を向けることに限られたエネルギーを使ったらどうでしょうかね。

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