2011年11月18日金曜日

TPPは「国論を二分」するほどの問題なのだろうか

「刺激」と「共感」。この2つが、大衆がメディアに求めている要素だ。

 テレビのニュース番組や新聞に限らず、(というか雑誌の方がより顕著だが)、センセーショナルな見出しと記事の扱い、そして・視聴者・読者に寄り添っていることを装う内容が、顧客を獲得し、視聴率や部数を伸ばす最も“安易”かつ“安上がり”な方法である。
 
 環太平洋パートナーシップ協定(通称TPP)に関する報道もまた、メディアにとっては結果としてその「刺激」と「共感」を生む道具でしかなかった。「結果として」というのは、伝え手は、その時その時でおそらくささやかな正義感と使命感に支配されながら善意で伝えていただろうから。それが「合成の誤謬」として結果としてどうなるかまでは計算していないから「結果として」なのである。悪意であればそれを攻めたてることは容易だが、善意にはそれがしにくい。特に日本人は。
  
 TPP報道を通じてメディアは、そのマッチポンプとしての機能を顕著に表していた。

 TPPは、国論を二分していたのか?.
10月の世論調査では「協議への参加反対」は10%だった。そして11月の世論調査では20%。賛成は36%。(そもそも電話によるRDD方式という世論調査自体に問題があるが、それは別項で考察することに。)

 この間何か状況が変わったというのだろうか。何も変わっていない。ただ反対派の活動が次第にエスカレートし、それが連日メディアで取り上げられることによって、更に反対派の活動は活性化する。このサイクルがメディアとしう触媒によってなされただけだ。実際、世論調査ではどの社のものでも、「わからない」「どちらとも言えない」が一番多かった。これはこれでまともな見解だろう。
 
 伝え手の未熟さと勉強不足は、主に2つの「主張」に回収されていた。ひとつは「政府は国民に説明を」という説明責任論であり、もうひとつは「TPPによって困る(と主張する)人々を繰り返し、取り上げる」分かりやすい、つまり安易で思慮のない報道である。 

 世の中の人がよくわかっていないTPPの内容やメリット、デメリットについて、「政府の説明不足」という、いくつかの「ニュース・ショー」で聞いたフレーズはそらぞらしく、メディアの当事者意識のなさを吐露していた。
 一般の人々がわからいことに「共感」して、自分たちも「わからない」と言いつのっているだけでなないか。いったいどんな内容ををどんな方法によって国民に「説明」するべきなのかは、まったく語っていない。自分たちも「よく分からないこと」を「政府は説明せよ」と愚痴を言っているようにしか見えない。勢い、分かりやすい、取材しやすい、書きやすい、「刺激的」な方向にベクトルは向く。

 反対運動そのものを取り上げること。困っている農業現場をとりあげる。これを刺激的かつ、読者・視聴者が共感できるように味付けして報道することが、王道となるのだ。

 また新聞のよくやる手は、賛成・反対の2人の論者の意見を「対論」として載せる記事である。これが有効である場合もあろうが、TPPに関して言うと、ハナから意見のかみ合わない、別の材料でお互い論じている識者の考えを並べても、なにも生み出していないということだった。

 一方は日本農業を擁護し、衰退を心配する。もう一方は、中小零細の、いわゆる町工場の生き残りや大企業の海外移転加速を懸念する。どちらも総論としては「正しい」ものを並べても、まったく無駄とは言わないが、あまり建設的ではない。

 まともなメディアならば、農業擁護論者にこそ、工業製品の貿易立国として生きて生きた日本の企業はどうなるのかと聞くべきだし、TPP推進論者には、農業はどうするのか聞くことが、本来の役割なのではないか。それが聞けないところに大手メディアの脆弱さがあり、そのことにうすうす気が付き始めた善良な人々が離反し始めているように思う。

 直面する課題を「深化」させる工夫をすることなく、「国論を二分している大問題」として、刺激に大上段でぶちあげて、それぞれの主張を“そのまま”載せる、あるいは映像化することのむなしさを感じないわけにはいかない。

 
 余談になるが一番滑稽だったのは、頑なに「反対」を唱え続けた民主党の 山田正彦元農林水産相と原口一博前総務相だ。
 反対運動中の山田氏のあの苦悩に満ちた顔は、農業を心配する苦悩ではなく、振り上げた拳を下ろすことができなくなって困った苦悩だったのだろう。
 野田首相が「協議への参加」という言い方で参加表明した後、「参加と言わなくてよかった」とホッと胸をなでおろしたのは、拳のもって行き先があってよかったという安堵にしか見えなかったのは私だけだろうか。

 いまどうしてるんですがね、山田さん。

この表情は何を物語るんだろうか


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