2016年2月11日木曜日

書籍の“価値”について考える




岩波新書
●渡辺靖「<文化>を捉え直す 864円。
●小熊英二「生きて帰ってきた男 1080円
●原武史「『和天皇実録』を読む」780円

ここ半年の間に読んだ岩波新書は、ジャンルは違えどどれも価値ある「良書」だ。著書の方々のような明晰な頭脳はない私のような「読者」でも、一定の知識を得、物事を“深く”考えることに導いてくれる。ありていに言えば、どれも「読み応え」のある本だった。

 もっとも、この3人の著書は特別かもしれない。持続的にすばらしい著書を出している、日本の、いや「人類の」と言っても過言ではない「知識人」の人たちだからだ。
その著書が「新書」という形で読者に届けられている。しかし、どれも「安価」だ。
内容から言ったらこの値段では申し訳ないくらいだ。

「インターネットはタダ」「そこから何でも知識が得られる」と思っている安直な人々から見れば、書籍の価値など考えてもみないのかもしれない。この価格でも「納得」できないのかもしれない。
本(情報)の価値は人によってとらえ方は違う、一概に比較するのは意味がないと言わてしまえばそれまでだけど、世の中には一定の「共通価値」があるという前提で個人的主観として以下を論ずる。(論ずるというほどの内容でないけど)

良書(「良書」という言い方は、なんだか「PTAご推薦」のようなきな臭い感じがするのであまり使いたくないけど、価値ある本という意味で使っている。)は、広く読まれる“べき”であり、そのために安価な価格で提供される“べき”という考えに立つなら、この価格が妥当なのかもしれない。

だから、いくらなら妥当かということに意味はなく、出版社は販売部数の予想など市場の動向を見ながら、その妥当な価格を決めているのだろう。

一方、最近、タイトルに魅かれて図書館で借りて「見た」本が下の2つである。




















●小倉広「アドラーに学ぶ職場コミュニケーションの心理学」日経BP 1400円
●できる男は超小食   主婦の友社 1200円

広い意味での「人事」と「ダイエット」は興味分野だけど、とてもこの値段を出して買う気にはならない。図書館で順番を待って借りた。実際、貸し出しでは人気で、1か月以上待った。

▼「アドラーに学ぶ・・」
著者が傾倒するアドラー心理学に則した、いわゆるハウツー本。ところどころにアドラー心理学のエッセンスが記されているが、かれはアドラーの一次研究者ではなく、おそらく様々なアドラー解説本から内容を「引用」したにすぎないだろう。しかし巻末に「参考文献」は記されていなかった。
内容の大半は、どこかで彼が書いたかまたは別の人のよくある、ハウツーにすぎない。
ほとんど斜め読みで「理解」可能で、1時間もあれば読んで余りある。悪いけどこんな本をお金を出して買う「サラリーマン」はかわいそうだ。騙されているとも言える。図書館も公費を使って購入する書籍なんだろうか。借りといて文句を言うのもなんだけど。

▼「できる男は超小食・・・」この著者は他にも「生き残る男は細マッチョ」という同じような本を著している。内容は、要するに食べ過ぎるな、適度な運動が必要だという健康の基本を極論的に述べているだけだ。面白いことに彼の主張は「アドラーに学ぶ」に出てくる「認知バイアス」のお手本のようなところがある。つまり自分の考えに都合のいい事例を取り上げてつまみ食いして書いている。牛乳を最悪の食品として書いているのはその典型だ。食品には良い面と悪い面の両方があるだろう。その一方だけを取り上げて避難するという、詐欺師的論述にほかならない。

話が本題の「書籍の価値」ということから、いささかずれた。
しかしなぜ、内容の薄っぺらなトンデモ本が1200円や1400円で売られ、内容のある価値ある本が安価なのか、理解することが難しい。世の中それで経済が回っているのが不思議だ。

別に、価値ある本をもっと高くして売れと主張している訳ではない。これだけの内容のある本を安く手に入れられることは、読者として有り難いことだ。しかし著書の立場にたては、これだけの内容の本を書いたのだからそれなりの報酬を得られるようにすることが必要だろう。そのことが次の執筆につながっていく。

この項は書いていて、自分が何が言いたいのかだんだん分からなくなってきた。
ただ、上記の岩波新書の著書の方々にお礼を言いたかっただけかもしれない。
もう終わりにしよう。

追記:
自分でもスッキリしないのでもう少し満員の山手線の中で考えた。
市場価値としてどういう値段で売られていても、まあそれはいいとして、これを公立の図書館に入れるとなると別問題じゃないかなと思い到った。

内容のうすっぺらな本を「高値」で購入するのは、だれがどういう基準で選んでいるのか、当然問われてしかるべきた。税金という「公金」で運営されているのだから。
岩波新書、上の3冊分の値段で、下のトンデモ本は2冊。

図書館のありかたそのもに関わってくるけど、公立図書館としてはどちらを購入するかは、よく考えた方がいい。二者択一の問題ではないというだろうが、そうではない。選書のありかたそのもにつながる大事なことだ。と、思うけど。






















1080円 864円

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