2015年3月26日木曜日

「図書館はタダ」で、いいのだろうか


新潮45の2015年2月号の特集は
「『出版文化』こそ国の根幹である」だ。

この特集の中に、「図書館」批判の論文がいくつか出てくる。

●図書館の“錦の御旗”が出版社を潰す/石井昻

を興味深く読んだ。

図書館のありかたについて、再度、少し考えてみたい。
これまで「大田区区立図書館とのバトル」で少し触れてきたが、
石井氏の主張には、出版社の言い分として傾聴に値するものがる。

言っていることは、きわめて明瞭だ。
「本を1冊作るのには大変な労力が必要であり、それ自体は赤字。出版社はヒットした書籍の重版で、かろうじて持っている。
だから新刊本を貸し出すのはやめてほしい。せめて半年猶予がほしい」というものだ。

 形ある物を作り出すのは、どんなものでも、それなりの労力がいる。創作料理でも、テレビ番組でも、また家ひとつでもそうだろう。しかし私たちは、出来た結果しか普段は目にしないから、そこまでの道程でどんな人々の創意工夫と努力があったなどとはあまり想像できない。いや、「しない」のだ。

 それは、『消費社会』のメンタリティーそのものであろう。イイ物が安価にお金を出せば買える時代。それはそれで「良いこと」だが、そのためにわれわれはすべてのものが、安価、もしくは安易に買えるものだと錯覚してしまう。結婚相手だって、アプローチしたり、振られたり、さまざま努力して得なくても、お金を出して結婚斡旋会社に「ベストマッチ」を探してもらえば手に入れられる時代だ。
だから、多くの人が錯覚を持ってしまうのも止むを得ないかもしれない。

 ユニクロのヒートテックが開発されるまで、関係者のさまざまな探究心と苦労があったかもしれない。しかし大量に作って売ることで、そのコストは回収できるので、この会社は、作るのが大変だったんだヨなんて、あまり主張しない。着る方も1,000円以下で快適に着ている。

だから「良書」もそんなもんと思ってしまうのか。
でも、それでいいの?と石井氏は問いかけているのである。読みやすい新書ならば、2時間もあれば読み終わってしまう。皮肉なことに「良書」ほど、スラスラ読めるから読書時間が少なくて済む。
(反対にウッカリ「悪書」を読み始めると、なかなかページが進まないので時間がかかったりする。(まあそれも楽しみであるけれど)

石井氏の主張は、ひとつの書籍を生み出す苦労話ではない。モノを生み出す手間ヒマを素直に記してくれたと思う。読む方も、こうした制作者に創造力を働かせる必要があるだろう。

貧乏人は本を読むなと言っている訳ではない。ベストセラー本を大量に図書館が購入するのは、如何なものかと、疑問を呈しているのである。その主張に私は同意する。

でないと、出版社はどんどん「単に売れる本」ばかりに傾斜していってしまうだろう。それでなくても、新書はいささか粗製乱造気味なんだから。



一方図書館はいまどういう状況か。
 これは何度も記してきたが、住民への「サービス向上」である。多くの自治体で図書館業務が委託や指摘管理者に「下請け」されている中で、入館者数や貸し出し冊数は、「サービス」のひとつの指標となっているだろう。だから、多くの人に貸し出されるようベストセラーをいち早く多く取りそろえる。それが「指定管理者の生きる道」だ。

自治体経営者(首長)は、「お役所批判」を極力避けるように行動することが構造化されている。
「お役所は非効率」「税金の無駄遣い」との批判されるのを一番恐れる。次の選挙を考えると、「お役所仕事を一掃しました」と言いたい。
だから「民間並みのサービス」をすることが一番とされているのだろう。

私の知る限り、いま平日、日中の図書館は、リタイア人、ヒマを持て余す人の憩いの場だ。

よく利用する都心・港区のある図書館に、開館時間の9時を少し過ぎたろに行くと、新聞・雑誌コーナーに陣取っている大半の人は、いわゆる「お年寄り」。そして時々、近くに「棲む」ホームレスらしき人もいる。

住まいの近くの都内住宅地の某図書館も、似たようなものだ。
新聞コーナーはいつ同じ顔ぶれの人に占領されている。

行き場所のない人に夏は冷房、冬は暖房のよく効いた場所と読み物をダタで提供してくれる、こんないいところはない。

何もこれが悪いという言っているのではない。平日働いている者にも、もう少し使い勝手のいい図書館になってほしいということだ。せめて閉館時間をせめてもう少し遅くする。年末年始も、閲覧のみでいいから開館する。それが納税者へのサービスなんじゃないかな。

売れる本を買い漁って、出版社を苦しめるのが公立図書館の役割ではないだろうに。

図書館の役割を考えることは、出版社の社会的役割を考えることであり、それは大きくいえば、われわれの生きている社会の『文化』を考えることでもある。出版社を「向こう」(すなわち、“売れる”大衆的読み物ばかり出す組織)に追いやらないためにも、読者の側も、守っていく「心遣い」が必要だろう。
 もちろん出版社も私企業であり、石井氏も書いていたように「高給批判」もある中で、程度問題ということもあるが、ルールは確立されてもいい。

 再販制度の問題は古くて新しい課題だろうが、いまのところ、この制度が「自由な経済活動を著しく妨げている」問題とは思えない。性急な制度改革をする緊急度がテーマではないだろう。

ただ、「消費税の軽減税率の適用」には反対である。(新聞社が主張しているが、出版社が主張しているかどうかは知らないけど)。
これは税制全体の問題であり、税の軽減という形で「保護」するのは、まったくオカと違いだ。税はあくまで「公平」であるべきだ。(別項「消費税は最も公平な税制」で記したことを、再度考えてみたい)

※「出版文化」こそ国の根幹である、という通しタイトルにはちょっと違和感。別に国を守るために、出版文化があるわけではないだろう。国などという「再帰的」なものはどうでもいい。共通した言語で文化活動をしている「わたしの生きている“社会”」が大切なのだから。まあ、どうでもいいけど。




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