2015年3月4日水曜日

東急電鉄という体質③ 「マナー対策」考

東急電鉄発行の冊子を「引用」
  「東急電鉄という体質」という論考は、過去ブログを見てみると、2011年7月以来だ。

 今回は「マナー対策」を考えてみたい。
 どこので鉄道会社でもそうだろうが、マナーの悪い乗客対策には頭を悩ましていることだろう。おそらく苦情が一番多いのではないか。私自身もしばしば「アタマにくる」ことがある。(まあ、かといって鉄道会社のお客様相談室に電話をかけてみても事態が変わることはないので、行動は起こさないが)。

 鉄道会社の対策で一番優先順位が高いのは、言うまでもなく「人身事故対策」だ。これで列車が遅れると、振替輸送などの経費がかかるし、ラッシュ時であれば混乱もする。だから、山手線も、私鉄も、「お客様の安全のために」ホームドアの設置を進めている。
これが整えば、経費のかかる人身事故が減るだけでなく、朝夕のラッシュ時に駅員や警備員を配置する人件費を削減できる。どの会社も費用対効果を見据えながら設置を進めている。それはそれでいい。

  では「マナー対策」はどうか。冒頭に書いたように苦情が多いので、何等かの対策を講じる必要性は感じているのだろう。
啓蒙のポスターも毎年のように更新されている。

 半年ほど前に東急線の駅に置かれるようになったのが、この「マナー&安全ブック」である。A6版のコンパクトなもので、中味もソフトな語り口ながらストレートな「マナーの呼びかけ」になっていて、よくできていると思う。マナー対策に力を入れてますよ、というアピールにはなっている。

東急「マナー&安全ブック」より“引用”


 しかし、ここに(東急電鉄に限らず)大きな組織の陥穽を見た気がした。

 ここからは推測が入るが、おそらくこの冊子を作成したのは、本社の広報などの部門だろう。苦情が多いマナーについて、「お客様」相談室などの要請を受け、ポスターだけでは周知が不十分だからと予算をつけて作りあげた。そして各駅の窓口などに配備し、乗客にマナー向上を呼び掛けたのだ。

 このことに何ら業務上の瑕疵はないし、担当者は一仕事やったと思ったことだろう。
 しかしその効果があるかというと疑問だ。もともマナーの悪い「民度の低い」人々は、こんな冊子を手にとって見るという行動にはでない。イヤホンをしてスマホを握りしめて夢中になっている輩に対して、ほとんど冊子を読んでくれという要求は、無意味だ。
実際、私の使う駅では、いまも窓口に置かれていて、あまり減ったようには見えない。


マナー対策で一番効果がありそうなのは、毎日、車内で呼びかけることだ。「足を組んだり、投げ出さないでください」「ドア付近は広く開けて下さい」「歩きスマホは他のお客様の迷惑になります」と。ひつこいくらい、繰り返すことでしか、民度の低い人々の意識は変わらない。

しかし、そうした呼びかけは、時々思い出したように、しかもマニュアル通りにしされているに過ぎない。これが現実だ。なぜか。

 車両運行の現場部門にとって、一番大事なのは、安全運行・定時運行だ。日々車両を動かしたり、車掌業務に就いている方々にとって、事故が起きないことと時間に遅れないことに心血を注いでいる。だから、車内のマナー対策のためにアナウンスすることなど、余裕がある時にしかできないし、そのことが運行の現場で「評価」の対象にもなっていないだろう。
 車内での呼びかけが時々行われるのは、おそらく、運行マニュアルにやるように書いてあるからだろうが、安全や定時運行をおろそかにしてまで行うという「業務」ではない。

 だから日常的な呼びかけは行われないし、マナーの悪い乗客は減らない。広報部門も運行の現場で一番大事なのは安全と定時だということは当然分かっているので、「もっと呼びかけろ」とは言えない。だからせめてという思いで「冊子」を作った。

それぞれの部門にとって一番大事なことは違う。大組織になればなるほど、各々の連携が難しくなる。みな使命感を持って鉄道運行に関わっているのだが、「マナー対策」に関して言えば、事態はよくならない。「合成の誤謬」とは、まさにこういうことではないか。難しい問題ですね。

これは何も「東急電鉄の体質」でなく、多くの大組織に言えることだが、とりあえず身近な事例として考えてみた。私にとって、車内でマナーの悪い乗客を見るのが日常で一番ストレスがたまることだから。


東急「マナー&安全ブック」より“引用”

東急「マナー&安全ブック」より“引用”

東急「マナー&安全ブック」より“引用”

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