2017年1月7日土曜日

子どもの貧困と、どう向き合うか。「ヒトゴトではなくジブンゴト」

 「情けは人のためならず」という格言は、よく小中学校で意味を間違えやすい事例として出てくる。
 知らない人間が言葉をそのままとれば、どうしても「情けは人のためにならない」と受け取られてしまうのは、いたしかないかもしれない。
正しい意味「(他人に)情けをかけることは実は自分のためなんですよ」ということは、でもちょっと利己的な雰囲気もあり、少々いやらしい。

 『子供の貧困が日本を滅ぼす』(文春新書)は、その意味で、タイトルがちょっといやらしい。キャッチな言葉ではあるけどね。おまけに帯には大きく「あなたの生活が壊されるのだ」とある。ますますいやらしい。まあ、手にとってもらうためにしょうがないのかもしれないけど、ありていに言えば、「大衆に媚びる」タイトルだなあ。

 だけど、本書の内容はタイトルとは裏腹に論理的・実証的であり、真摯な内容だ。社会のありかた、人生の持ち方を考える上では、一読の価値ある本だ。

 「子どもの貧困」問題を他人事と切って捨てないで社会全体で考えることの大切さを、丁寧に説いている。「ヒトゴトではなくジブンゴト」として。
 
 自分だけ(一部の人)だけが豊か(金持ち)になる社会を想像してみよう。そういう人たちはお金で様々なモノを手にいれることができ、様々な体験を積むことができる。(と仮定しよう)。でもいったん外に出ると、そこは貧困社会だから、治安も悪い。身を守るために厳重に管理された家に住み、厳重に安全策が取られた車に乗り、もっと言えばボディーガードをつけなければ外を自由に歩きまわれない社会だ。そんな社会がはたして住よいのだろうか。コストもかかる。
  経済から考えても同様だ。お金持ちが使う道具、車・家、着る服は、数が少ない分割高になる。選択肢も少ない。
 
 一方、均一にそこそこ豊かな社会を概観してみる。フツーに外に出ても治安もよく自由に様々な所に安全に行ける。多くの人が同じようなサービスを享受でき、同じように暮らせる。少なくともこれまでの日本社会はこちらに近い社会だったのではないか。

 もっとも「ウサギ小屋」と揶揄される狭隘な住宅や、「通勤地獄」「受験戦争」などさまざまな弊害がまったくない訳ではないけど。それでも、安心・安全な社会は、比較対象で言えば世界の中で獲得していたのだと思う。

 巷間言われる「格差社会」。
もう聞き飽きた言葉と拒否反応を持つかもしれないけど、ここらへんでもう一度、社会のありかたを自分のこととして考えてみてもいいのではないか。
 
「情けは人のためならず」とは、そういうことを言っている格言だと善意に解釈できる余地はある。

 で、「子どもの貧困」問題。阿部彩さんの岩波新書もかつて読んだけど、これはこれで充実した本だ。ただ、新書として読むにはちょっと堅苦しく感じることがないではなかった。(それだけに著者は聡明なのかもしれないけど)

池上さんの本は立ち読みでパラパラめくっただけど、『子供の貧困が日本を滅ぼす』にも一部引用があるなど、それなりの本だろう。
 
 子どもの貧困問題、ひいては貧困家庭そのものにもと社会が目を向けて、手立てをすることが、いわばwin win になるということ。その大切さを改めて認識する好著だ。

ちなみに、子どもたちに一番なにが必要か。それは幼児期からの動機づけだ。信頼する心が育っていることだ。
幼児期からの「動機付け」で一番大きな要素は「Grit」=「やり抜く力」だという。

ブログは書評ではないので、内容に関する記述は避けるが、第5章でシカゴ大学・ヘックマン教授の大規模な実証実験が紹介されている。非常に興味深い。「恵まれない境遇にある子どもたちに対する投資は公平性や社会正義を改善すると同時に、経済的な効率性も高める非常にまれな公共政策」という言葉は印象的だ。

 日本での「子どもの貧困対策」がどう行われているかも紹介されている。

ちょっと脇にそれるけど、テレビや新聞の企画記事で伝える「子どもの貧困問題」は、その多くが、〔深刻な実態ルポ〕⇒〔篤志家による援助〕⇒(問題提起としての)政策の“不足”という図式で描かれている。テレビ企画、読み物としてはそれが一番「受けがイイ」ということなのだろうが、そうした企画自体が“貧困”だ。
 
 最近、どこのテレビだったか失念したけど、子どもの貧困を扱ったテレビの番組で、貧困とされた少女がスマホを使っていたことをオカシイとして炎上した例があった。断片的、部分的にしか伝えない(作り手は全体像を伝えているつもりでも受け取る視聴者はそうではない)企画では、かえって間違った認識が広がる好例だろう。

 社会を悪くしているのは、社会の木鐸たるメディアそのものなのだ。

ちょっとそれたけど、一読に値する本を紹介。


 
 


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