2015年10月11日日曜日

中小企業はたいへんだ。行政の“理不尽な”要請に応えることができるのか。

 従業員170足らずの小さなカイシャの総務をやっていると、これまで大組織のいち歯車だった時とは全く違う世界が見えてくる。

 そもそも知らいないことばかりだった。社員に給料ひとつ払うのも、社会保険の引き去り、所得税の源泉徴収、住民税の特別徴収、(実際には社員からはとらないが)児童手当負担額の計算など、実に複雑で、しかも細かい知識がないときちんと対応できない。だから多くの企業では給与計算そのものをアウトソーシングしているところもあるようだが、これを自前で行うとなると毎月たいへんだ。「給与奉行」などソフトも販売されているが、だからと言ってソフトに入れてしまえば、それで終わりという訳ではないだろう。最期は手計算で「検証」しなければ、正確な給与支払い額は出てこない。

 小企業といっても「大組織」の完全子会社で、その意味では倒産のリスクはなく、仕事もまあ受注できるようになっている。それでも結構、会社の維持に神経を使うのだから、ふつうの独立した中小企業であれば、その大変さは想像に難くない。これまで大組織の中にいる時は考えもしなかったことだけど、本当に経営者は緊張の連続だろう。

 社会は善良な経営者ほど苦労する構造になっている。従業員を路頭に迷わす訳にはいかないし、様々な「お上」の要請に真面目に応えるとなると、どんどん出費がかかる。

 障害者雇用の数値目標はいま中小企業まで拡大されている。達成しないと課徴金をとられる。また高齢者雇用の圧力も強い。労基署の“回し者”が訪問してきて、会社の定年を65歳にしろと迫る。そのくせ管理職を増やすと「名ばかり管理職」ではないだろうなと、疑いの目をして、きちんと残業代を払えと無言の圧力を見せる。それではと請負で仕事を出すと、「偽装請負」ではないかと疑われ、派遣労働者を入れると、こんどは3年たてば自動的に社員化しなければならず、それもなかなかできないので、せっかく仕事を覚えてくれた人をなくなく「切る」ことになる。下請け取引で「優越的地位の乱用」はないか、3条書面はちゃんと作っているのかなど、「法律に則った対応」を求められることも多い。

 社会が人口も増え成長期にあるのであれば、多くの企業は(放漫経営でない限り)、まあそこそこ発展し、お上の要請にも何とか応えることもできただろう。しかし現代はそうではない。人口が増えないということはパイが増えない。経済学の初歩で考えても、それはゼロサム社会(この書名の本もずいぶん前だったな)で、パイの奪い合いにほかならない。単純化して言い換えれば、栄える会社と衰退する会社が半々だということだ。

 前述の様々なお上の要請も、半分の会社はこたえられるが衰退する会社では難しいということだ。竹中平蔵や八代尚宏などリバタリアンにしてみれば、こうしたことは、衰退する企業は市場から退場し、労働力も発展する企業に移っていくだけのことと、切り捨てるかもしれない。確かにマクロ的に見れば、その通りかもしれない。しかし現実はそう簡単ではない。属人的に個々の人はそう簡単には異なる職種の仕事にすぐ移れる訳ではない。それも年令がいけばいくほど、新たなスキルを身に付けるのは難しくなり、労働力の移動はそう進まない。

 そこに社会のひずみが表れる。
だからと言って障害者雇用の課徴金をやめろとか、高齢者雇用をしなくていいとか、児童手当負担金はいいらないと言っているのではない。必要なのは行政が個々の会社の「本当の実情」(重複表現でけどまさに重ねてそういうこと)を見極める目を持ち、個々の企業ごとの対応ができるような仕組みを作ることだろう。言うは易し実現するのは難しいことかもしれないけど。

 それぞれのお役所はそれぞれ崇高な目的意識を持って、日々「行政指導」にあたっているのだろう。善意に考えればね。でも、小さなカイシャで日々その窓口になっていると、あまりにも要請が多すぎるように思えてならない。アンケートの類も結構多い。「今後の政策に生かすために・・・・、ご協力を・・・」という要請文がどれも添えられている。実際に行っているのはコンサル会社で、アンケートの提出先は、そのコンサルの下請け企業だ。

 どう表現してよいか分からないけど、経済学でいう「合成の誤謬」が行政の行うことでも顕著になってきていて、行政の要請に応えられる企業は「半分しかない」ことが分かってもらえていないのだろう。何しろお役所の方々は(よっぽどの無能者か犯罪者でない限り)、自分の組織が「なくなってしまうかもしれない」ということを実感として感じることはないからだ。

PS:マイナンバーが始まる。給与生活者にとっては、これはある意味で「朗報」のはずだ。なにしろ所得隠しを防ぐ結構有効な手段だから。法人番号も始まる。こうした施策を新に有効なものにするには、それによって社会の公平性が保たれるかだろう。




 

0 件のコメント:

コメントを投稿