2017年4月1日土曜日

「本屋はじめました」は、これまで読んだ、どの「人生論」よりも心にしみる書籍だ。

 指南書と言ってしまったら、著者に失礼かもしれない。でもこの本、『本屋はじめました』(辻山良雄著・苦楽堂2017年)は、「こんな本を読みたかった」と思える書籍だ。
書店といういわば斜陽産業に、自ら飛び込んだ著者の記録は、そのまま人生の指南書と言える。これまで読んだどんな「人生論」よりも面白い。(人生論の類はあまり読んでないけど)
 著者はリブロという西武系の書店勤めから独立し、自らブックカフェを始めた。その記録だ。が、単なる記録ではない。彼が社会人としての歩みを振り返る中で、さまざまな情報が詰まっている。それを押しつけががましくなく、丁寧な筆致で、淡々と語っている。
 何か商売を始めたいと思っている人、本を読むとはどういうことか迷っている人、などなどこれから社会人として人生を歩み始める人には、本当によい“指南書”になっている。
 指南書と書くとノウハウを手っ取り早く伝授するという印象かもしれないが、この本は違う。結果として人生の指南書になっているのであって、おそらく著者は、書き始めはそんな意識は(ちょっとはあったかもしれないが)、あまりなかっただろう。彼に執筆を依頼したであろう編集者は、しかし著者の人柄と文章のうまさ、人生の方向性から、これはいい本ができると直観したと思う。
 そして出来上がったこの本。1月に刊行され2月には早くも第2版だ。(買わなくてすみません。図書館で借りました)
 著者の辻山さんの社会人としての生き方は、これから勤め人として門出する人におおいに参考になる。
 企業人として仕事をすることは、その仕事に忠実になること、つまり多くの場合、マーケティングに従い、利潤を上げることを主目的にそのように立ち振る舞うことだ。しかしその中でも、直ちに利潤に結びつかなくても自分がやりたいこと、やってみたいことと折り合いをつけて実現していくことができるかどうか鍵だ。それは本屋という仕事に限ったことではないだろう。(言うまでもないけど、やりたいことだけやってうまくいくことは世の中に皆無でしょ)
 大手の書店でも小さな本屋でも、利潤を上げるためには、マーケティングに従い売れる本を売ることに尽きるだろうが、一方でそれだけではない「何か」を追求する志がなければ商売は続かない。(続かないというのは精神的にやってられないという意味で)。

この本を読んで、いろいろなことが頭を巡った。
●これほど本屋経営のノウハウを開示してしまうのはなぜなんだろう。⇒大手書店で企業人としてやってきて、書かれたノウハウをマネするだけでは商売を続けられないこと、それなりの知識と経験の蓄積が必要なことは、著者自身がよく分かっているから、書けるのだろう。まったくその通りだ。
●著者もチラっと書いていたが、独立せずリブロで会社員を続けていたら、それはそれでこの人は成功し、リブロの経営陣になっていただろう。それほど商売がよく分かっていて、しかも書籍という教養を身に付けている人だ。
●自分でも「本屋兼喫茶店」=ブックカフェをやってみたいと、あたまの隅で考えているが、この本を読んで、逆に自信をなくした。(笑い)。経営のひとつひとつ、日々行うことが丁寧に書かれているだけに、自分にはマネできないことが、次第に分かってくるから。商売をすることの難しさも、ヒシヒシと伝わってきた。
 
 本の中に仙台の「火星の庭」というブックカフェの話が出てくる。4月から息子が仙台で学生生活をおくる。今度行ってみよう。先日、家さがしで仙台市内を歩き回って、新しい市の図書館=メディアアークの存在を知った。火星の庭は、ここで様々な企画展を行っているらしい。今度から仙台に行くのが楽しみだ。
(まだ、書きたらないけど、とりあえずアップします)
 



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