2013年11月9日土曜日

人口減少社会で「定常型社会」の実現は・・・考えてしまう

「人口減少社会という希望」(広井良典 著)を読む。

図書館で少し待って借りることができた。
奥付けを見ると、すでに3版だ。この手の本としては売れているようだ。

 広井さんは、成長型経済ではなく、定常型社会の必要性を説く方として知られている。日本の人口は今後確実に減ることが分かっていて、これから少子化対策が“万が一”功を奏しても、実際に増えだすのは何十年先になるかわからない。
  だから経済も縮小に向かわざるを得ない。よって定常型社会、ひとことで言えば経済成長がなくても「幸せ」になれる社会を目指すべきだし、それしか道はない。というのが一般に理解されている主張だろう。

総務省のwebsiteより

 理念としてはよく分かる。人が減るのに経済のパイを増やすのは限界があろう。
しかし世の中はまだ「成長経済」以外の経済のモデルを持っいない。だからアベノミクスも「成長」を謳い、財界も労働者も大衆もみなそれに群がる。

広井さんの考え方がいまひとつ「支持」を広げられないのも、経済学者の間で、「成長」以外に経済モデルを見出せていないからかもしれない。

大竹文雄さん(大阪大学教授)は、最も信頼できる経済学者のひとりだが、この人をもってしても、やはり将来世代のためには、成長はある程度必要だとおっしゃっている。(私は、こちらの主張をいくらか支持している。)

とはいえ、この書著ではいくつかの知見を得た。巷間言われていることもああるが、改めて気づかされたことも多い

○日本の高齢化率はやがて40%前後で「高値安定」する。
 人口トレンドで見ると2030年に高齢化率が31.8%だったものが、2050年には39.6%に上昇する。しかし2100年の推計でも40.6%である。つまり今後高齢化率は2050年ごろまでは上がり続けるが、その後は50年で約1%上昇と、上昇率は非常に緩やかになるというものだ。

 ここから導きだされることは、われわれは高齢化率が約40%の社会を定常化した世間として、社会構造を考えなければならないということだ。

 そのモデルはすでに地方都市にあるだろう。また一口に高齢化社会と言っても、高齢者も元気な人が増えることが“期待”されるので、実体としての高齢化率は、低く見積もれる可能性がある。
(余談だが、私の祖父は中卒で働きだし、60で引退し隠居した。その後13年生きた)。清家篤さん(慶応義塾塾長)が唱えている、「生涯現役社会」を実践している人もこれからはぐっと増えると思う。

○日本にとって1億2,000万人の人口が「適正」か?。
 「人口減少」というが、今の人口が絶対維持されるべき水準ではない。英、伊、仏はほぼ6,000万人代、ドイツが8,000万人台。国土面積は英、伊は日本より小さいが、仏は1.5倍、独がほぼ同じだ。1億2,000万人いなければ日本が維持できない訳ではない。

 ただ、「減っていく」という現実をどう乗り切るかという長いスパンの問題は決して小さくない。縮小経済を乗り切るのは、容易ではない。その辺については広井さんはあまり言及していない。定常型社会に至る過程は険しい道のりなのかもしれない。


○日本は意外に「貿易立国」ではない。
 日本の輸出依存率は意外に低い。2009年で11.4%、60年が8.8%、70年・9.2%、80年・9.2、2000年・10.1%であり、「高度成長期に特に高かったわけではない」と指摘している。ちなみに2009年で見ると、韓国42.4%、中国24.5%、ドイツ33.6%、アメリカ7.4%だという。中国、韓国の好調な経済は輸出に過度に頼っていると見ることもできるし、日本はこれから輸出に「延びしろ」があると言うこともできるのだろうか。

 ただ、注意しなければならないのは、この数値は「GDPに対する輸出額割合)であり、中国や韓国より先に「豊かになった」日本の数値が低いのは当然なのかもしれない。今後、中韓の国内がより豊かになってGDPを延ばすと相対的に輸出依存度は下がることも考えられる。
(広井さんが自論を展開するために恣意的にこの数値を出したということではないだろうが、統計数値を見る時は注意が必要だ。)


○「地域でお金を循環させる」。
 これはよく言われるコミュニティー経済であり、これからサービス中心の経済構造になっていく中で、必然的にそうなっていくものかもしれない。しかし、結構それは悩ましいし、そう簡単な話しではない。
 現代生活を維持するには、モノは必然的に必要だし、原始的に生きていける訳でもない。例えば自動車ひとつをとってみても、これからはCO2を出さない車、衝突防止装置の車が「地域」でも必要になるし、そうし「道具」は一定の期間を経て更新が必要だ。モノ作りの革新は、経済活動全体の中では相対的にその割合は低下するだろうが、かなりの部分として残さなければならないし、それは「地域経済」の中では回っていかない。その折り合いをどうするかを今後論じる必要があろう。

 ネット販売による「地域外へのお金の流出」も無視できない。地方にいて気づくのだが、東京や大阪と圧倒的に「現物」の種類が違う。欲しいものを購入するには、やはりネットに頼るというのが現実だ。それは地域外へお金が流出することを意味する。若い人に「この地域にあるもでガマンせよ」なんて、何の説得力も効力も持たないだろう。

 広井さんは、地方に定着する若者が増えていると、最近の傾向を見ているが、もしそれが本当としても、地方にいてもネットなどIT環境が整っているから、地方に若者が不便を感じなくなっているという面も見逃せないだろう。何しろ生活コストは大都市に比して格段に低い。


○消費税の必要性について(別項で考えてみます)


○余話
ちょうどNHKの教育テレビで、「亀田音楽学校」http://www4.nhk.or.jp/kameon/
というのを放送していて、そこに吉幾三の「おら東京さ行くだ」が、紹介されていた。80年代前半の若者の気持ちを、ある面では見事にとらえていた、歌だったとつくづく思う。
https://www.youtube.com/watch?v=wQ2zeulYjnI




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