2014年6月12日木曜日

戦場で人は心を病む。映画「ディア・ハンター」が描いたこと。

通っているスポーツジムの更衣室で流れていた静かな音楽が、何かしばらく思い出せなかった。手持ちの映画音楽・音声ファイルで探して、それが「ディア・ハンター」であることが分かった。

物悲しい、しかしとても印象に残る曲だ。「マディソン郡の橋」とともに好きな曲である。

1978年に公開されたアメリカ映画『ディア・ハンターは、監督はマイケル・チミノ主演は、あのロバート・デ・ニーロだ。
1960年代末期におけるベトナム戦争での過酷な体験が原因で心身共に深く傷を負った若き3人のベトナム帰還兵の生と死、そして3人とその仲間たちの友情を描いた、アカデミー賞受賞作品だ。
詳しくはウィキペディアを参照されたい。

 記憶の限りで言うと、劇中、北ベトナムの兵に捕えられたアメリカ兵が「ロシアンルーレット」をさせられ恐怖におののくシーンが出てくる。精神を病み、後にベトナムに舞い戻った一人が、やはりこのチキンゲームで死ぬ。これを巡って、本多勝一氏が、「マイケル・チミノ氏への手紙」というコラムで、ベトナム兵が捕虜にしたアメリカ兵にロシアンルーレットを強要した事実はあるのか?と強く批判したことを、なぜだか覚えている。ベトナム戦争を長く、しかも深く取材してきた本多氏にとっては、許しがたい「フィクション」だったのだろう。
web より「引用」

確かに、ベトコン側から見れば、「残酷なベトナム人」が「徴兵でしかたなくアジアの戦地に来た、いたいけなアメリカ青年」をもてあそぶという図式は許しがたく映るだろうし、ベトナム人の感情を逆なでするものであり、本多氏の批判はもっともだ。(もっとも私は、映画を見てそういう印象は特に持たなかったが)。 しかもその映画がアカデミー賞をとったとなると、結局はこの賞そのものが、白人主義的性質の賞でしかないという見方もできる。

そのことを分かった上で、なお「ディア・ハンター」は、なぜか深く心に残る映画だった。「アメリカ人の側」「アメリカ人の論理」からしか描いていなかもしれないが、そこに人間の精神を深く考えさせる「何か」があったのだ。(この映画はDVDで出ていて、なんと港区の図書館にもある。)

戦争とはいえ人を殺すこと、殺されるかもしれないという恐怖を体験することが、どんなに人の精神にダメージを与えるか、それは計り知れない。すぐ忘れてしまい何ともない人もいれば、心の奥底にマグマがたまり、さまざま形で「噴火」してしまう人も、決して少なくないだろう。

なぜ、35年近く前の映画のことを書いたかというと、アメリカでも日本でも、「戦争」による「心の傷」が生んだ悲劇が、最近も伝えられたからだ。

(以下はweb ニュースの引用である)
米陸軍基地:3人射殺、イラク帰還兵が自殺 16人けが
毎日新聞 20140403日 1058分(最終更新 0403日 1303分)
 【ワシントン和田浩明】米南部テキサス州のフォートフッド陸軍基地で2日午後4時(日本時間3日午前6時)ごろ、男の兵士1人が拳銃を乱射して軍関係者ら3人を射殺、16人を負傷させたうえ、自殺した。基地司令官が発表した。現時点ではテロ目的ではないと見ている。容疑者はうつ症状などで治療を受けていた。2011年に4カ月間イラクに派遣されていたというが、今回の事件との関連は不明だ。同基地では09年にも軍人が乱射事件を起こし13人が死亡している。
 記者会見した基地司令官によると、容疑者は基地内の医療部隊施設付近で発砲を開始。車で別の建物付近に移動し、さらに発砲した。その後、女性兵士の反撃を受けると、自分の銃で頭部を撃ち抜き死亡したという。
 病院関係者によると、搬送されたけが人のうち9人は集中治療室で治療を受けている。
 事件を受け、オバマ米大統領は緊急声明を発表。09年の事件にも触れ「このような事態が再発するのは痛恨の極みだ」と述べ、真相解明を約束した。
 フォートフッド基地は兵士やその家族ら数万人が生活する米国最大級の軍事施設で、所属部隊の多くはイラクやアフガニスタンへの派遣経験がある。
 09年11月に精神科医の陸軍少佐が同僚兵士に発砲し13人が死亡、32人が負傷した。少佐はパレスチナ系米国人で当時、中東での米軍の作戦との関連が指摘された。
 米国では、昨年9月にも首都ワシントンの海軍施設で元予備役兵が乱射事件を起こし職員ら12人が死亡している。オバマ政権は銃犯罪抑止を主要政策目標に掲げているが、具体的成果は出ていない。


「3人の死、無駄にしない」 乱射事件追悼式でオバマ氏、基地安全強化に決意 
2014.4.10 09:06  
9日、米テキサス州フォートフッド陸軍基地で行われた追悼式典で演説するオバマ大統領(AP=共同)
 米南部テキサス州フォートフッド陸軍基地で2日に起きた銃乱射事件で犠牲になった米兵3人を追悼する式典が9日、同基地で行われ、オバマ大統領は3人の死を無駄にしないためにも基地の安全確保策を「刷新しなければならない」との決意を示した。
 オバマ大統領夫妻のほか、オディエルノ陸軍参謀総長や遺族ら約3千人が出席した。
 同基地では2009年にも13人が犠牲となった銃乱射事件が起きている。オバマ氏は追悼演説で、同基地でのこうした式典への出席が在任中2回目となったことについて「非常につらいことだ」と表明。2日の銃乱射後に自殺した兵士が心的外傷後ストレス障害(PTSD)の検査中だったことに関連し、精神的問題を抱える人が銃を入手できないようにすべきだと訴えた。(共同)

4月18日放送のNHKクローズアップ現代でも、イラク派遣の自衛隊について、驚くべき事実を伝えている。
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3485.html
番組によると、イラクへ派遣された陸海空の⾃衛隊員は、5年間で延べ1万人。NHKの調べで、このうち帰国後28人が、みずから命を絶っていたというのである。
戦地に派遣された人々の中には、心の傷を負う人が少なからずいるということであろう。


で、映画「ディア・ハンター」に話を戻す。
そうした戦地での心の傷をえぐりだしたということでは、この映画は秀逸だった。観ている者に深く訴えるものがある。それは単に「反戦」とか「平和の尊さ」とかいう話ではなく、生きていく上で、外的ストレスといかに闘っていくかということにほかならない。

平和で、ある種のどかなスポーツクラブの更衣室で、「ディア・ハンター」のサウンドトラックを聞きながら、そんなことを考えた。図書館でDVDを借りて、もう一度見てみよう。






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